2011.06.24
![]()
担当:
山田順
今回から月2回ずつ、ネットとメディアに関して原稿を書かせてもらうことになりました。もう50代後半ですから、ただの"おっさん"です。当然、ネットのヘビーユーザーではありません。なので、書くことはPCやスマホを使いこなし、ソーシャルメディアにどっぷり浸かっている世代の方々にとっては、「まさか」「そんなバカな」という話になる可能性があります。楽しいオンライン生活にとっては、なんの役にも立たないかもしれません。
でも、こういう視点も大切なのです。そうしないと、あなたは"オンラインバカ"になってしまうかもしれません。
本当は怖いフェイスブックの本質とは?(1)
日本でなぜフェイスブックが流行らないのか? 世界には6億人のユーザーがいるのに、日本では多くて300万人。巷にはフェイスブックのガイド本が溢れているのに、実際にやっているユーザーをあまり見かけない。この疑問に対してIT系人間の見解は、「日本人は実名を嫌う」というのが多いようだ。
が、じつはこれはやや的外れ。フェイスブックは日本とはまったく違う文化の産物だからだ。それは、映画『ソーシャル・ネットワーク』(The Social Network)を見れば、一発でわかる。フェイスブックは創業者マーク・ザッカーバーグという典型的な中流アメリカ人学生とハーバード大学がつくり出した文化が根底になっている。この文化は、アメリカで実際にそれを体験しない限り、多分、日本人にはわからない。こう書く私だって、アメリカで学生をやったことはないから、エラソーには言えない。ただ、娘がアメリカの留学生だったので、無理を承知で書いてみよう。
あの映画の冒頭で、当時ソフォモア(大学2年生)だった創業者のマーク君は、見事に恋人のエリカさまに振られてしまう。エリカさまから「あんたは性格がサイテー」と言われて頭にきたマーク君は、その夜、ブログに彼女の悪口を書きたてる。それでも気持ちが治まらず、大学のサイトに侵入して女子学生の写真を集めまくり、親友のエドアルドと一緒に女子学生の顔の格付けサイト「フェイスマッシュ」を立ち上げる。これが、フェイスブックの原点だ。
ここで重要なのはエリカさまが、ハーバードの学生ではなくボストン大学(BU:アメリカでは「ビーユー」と呼ぶ)の学生だったこと。全米NO.1いや世界NO.1のハーバード男子にとって、全然格下のBU女子に振られるなんて、プライドが許さない。ちなみに、ハーバードに入るにはSAT(Scholastic Assessment Test:日本のセンター試験と思えばいい)のスコアで2000点以上は必要。BUなら1500点ぐらいでも入れる。SATは満点が2400点だから、この差は大きい。つまり、マーク君はBU女子への腹いせから、今度は同じハーバード女子に的を絞ったのだ。
この「フェイスマッシュ」がアップされると、アクセスが殺到。大学当局のおとがめでサイトは閉鎖されるが、目をつけた先輩男子から、学内の学生交流サイトにすることを勧められ、フェイスブックは立ち上がる。
この学生交流ということが、次に重要な点だ。アメリカの大学には、社交クラブ(Social Club)といって、学生同士が交流をするためのクラブがある。男子用をフラタニティー、女子用をソロリティーと言って、名門クラはブ狭き門になっている。ハーバードのような超一流大学の場合、家族代々同じクラブに入っていたなんて富裕層学生もいる。
この社交クラブは、表向きは学生の交流、ボランティア活動、社会貢献をすることになっているが、その実態は「しごき」と「パーティ」。また秘密主義集団。当然、入会にはしごきテストがある。この関門を経て入会が決まると、上級生と新入生の間で、兄弟関係、姉妹関係が成立する。新入生女子は"Little Sister" (リトル・シスター)、男子は"Little Brother"(リトル・ブラザー)と呼ばれ、上級生姉さんは"Big Sister"(ビッグ・シスター)、上級生兄さんは"Big Brother"(ビッグ・ブラザー)と呼ばれる。アメリカ人がよく、「ビッグ・ブラザー」とか言っているのには、こうした文化背景がある。
フェイスブックのコミュニティが、いまでもクローズドを維持し、簡単に新しいオトモダチを入れないのは、これが原点だからだ。
このように、そもそも成り立ちが違うものに、「オトモダチを誘おう」なんてイージーに参加すると痛い目に会う。もちろん、フェイスブックはその後全米の大学、高校に開放され、2006年9月には誰でも利用できるサービスになった。しかし、その本質はいまも変わらない。なぜなら、いくらソーシャルグラフが広がろうと、その中心には超エリートのハーバード軍団が、デーンと居続けているからだ。
フェイスブックに最初に参加したハーバードをはじめとする全米のエリート学生たちは、その後、全世界に広がった。アメリカ東部の名門大学には、世界中からエリート学生が留学する。彼らは卒業すると母国に帰り、やがて国の政治やビジネスのトップに就く。つまり、彼らは今後フェイスブックを基盤に世界全体を動かしていく。こんなソーシャルメディアに、あとからノコノコ参加する気に私はなれない。しかも、私はもう"おっさん"だし、英語もたいしてできない。
ただ、娘は初期から参加していたので、いまでも世界中の仲間とオトモダチ交流を楽しんでいる。ほんと、うらやましい。
(注)フェイスブック日本版で、しかも日本語というローカル言語で、オトモダチ同士で交流している限りなら問題はなにもありません。日本という辺境文化圏のオトモダチの輪の中で、じつに楽しいオンライン生活が送れます。でも、たとえ英語ができても世界とは絶対にオトモダチにはなれません。

WRITER PROFILE
山田順
『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。