2011.08.10
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担当:
山田順
今回は、いま話題沸騰の「グーグルプラス(Google+)」について書こうと思っていた。が、その前に、グーグルのちょっとおバカな話を紹介したい。
先日、娘の北京在住の友人(アメリカ人)が、グーグルマップで面白い発見をした。グーグルマップの「ルート・乗換案内」検索で、「中国→日本」と打ち込むと、とんでもない表示が出るというのだ。彼のメールには「表示の27番目を見ろ」とあるので、さっそくやってみると、なんとそこには、次のような指示が書かれていた。
「27、太平洋をジェットスキーで横断する」
まさかと思い、マップのルートを見ると、中国の上海付近から日本の鹿児島県の串木野付近にルートが敷かれ、海を横断することになっている。「こんなこといったい誰がするんだ?ありえない」と、その友人。これを発見して、仲間で大笑いしたという。
この件は、その後、娘たちのフェイスブックサークルでも評判になり、次々に面白い発見がされた。たとえば「台湾→中国」とやると、表示の23番目には「太平洋を泳いで横断する」と出る。これは台湾海峡の間違いだが、狭い台湾海峡でも泳いで渡るなんてことはできっこない。
どうやらグーグルマップのルート検索は、陸路はいいが海路はデータが整っていないようだ。それに、中国とか日本とかおおざっぱな地点表示をすると、起点、目的地ともとんでもない場所になる。たとえば「日本」を起点にすると、そこは長野県の蓼科高原付近が表示される。
それで、もう少し詳しく、「東京駅→アメリカ合衆国ハワイホノルル」とすると、24番目に「太平洋をカヤックで横断する」と表示され、太平洋に入る地点は千葉県銚子市の利根川河口にある銚子漁港付近になる。銚子漁港にカヤックが置いてあるなんて話は聞いたことがない。
いずれにしても、グーグルとしては、「ルート・乗換案内」で、こんなおバカな検索をするユーザーは想定外だろう。だから、こんな表示が出ても仕方ないとは言える。
さて、本題に入る。「グーグルプラス(Google+)」だが、これがいまアメリカではすごいことになっている。これまでグーグルは、フェイスブックに対抗する新たなSNSサービスを開発しては失敗してきた。しかし、今回の「グーグルプラス」はどうやら成功しつつあるのだ。
米国時間8月2日に、調査会社のコムスコア(comScore)が発表したところによると、「グーグルプラス」のユーザーは史上最速のペースで増加している。コムスコアのアンドリュー・リップマン副社長によると、グーグルプラスの7月24日までのユニークビジター数(重複をカウントしない訪問者数)は2500万人を突破したという。SNS最大手のフェイスブックが同規模のユーザー数を獲得するまでには約3年、ツイッターは30カ月あまりかかったというから、これは、SNS界の勢力地図を塗り替える出来事になりそうだ。
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「グーグルプラス」の成功は、登録したユーザーを区分できる「サークル(Circle)」という機能にあるというのが定説だ。アメリカでも日本でも、専門家やアーリーアダプターたちは、この機能を絶賛している。これを使うと、たとえば家族と職場の仲間を別々のサークルに分け、自分の投稿を読む相手を制限することができる。これは、ツイッターのようにすべてのツイートをごちゃ混ぜで受け取るより、ずっと読みやすく、使いやすい。そのため、「グーグルプラス」でダメージを受けるのは、グーグルがライバル視したフェイスブックではなくツイッターになるということまで言われ出した。
コムスコアによると、「グーグルプラス」の現在の登録ユーザーの大半は米国内ユーザーで640万人、次いでインドが360万人、カナダと英国が各110万人、ドイツが92万人となっている。日本の数字は出ていないが、これまでの国内の報道によると、試行段階とはいえ、日本でもかなりの数のユーザーを獲得しているのは間違いない。
かつてSNSの最大勢力だった「マイスペース」はいまやゴーストタウンと化しているから、今後の「グーグルプラス」の成長次第では、ツイッターがそうなる可能性がないとは言えない。なにしろ140文字という限界がある以上、ツイッターの成長はここに来て止まっている。
ではグーグルが今後、SNS界でも一大勢力になるとどうなるだろうか?
いまのところ、グーグルは「グーグルプラス」を広告に結びつけていない。しかし、グーグルの収益のほとんどが広告で上がっている以上、SNSの最大の価値である「個人情報」(ユーザー情報)を集めれば、いずれそれを広告に換金するのは間違いないと予測する向きがある。実際、アメリカの一部ウェブメディアは「グーグルはData Exchanging(データ取引)に乗り出すだろう」と報じている。「データ取引」とは、消費者の行動履歴などを含む、ユーザーに関する個人情報を広告主に販売するということだ。
一般に個人情報などと言っているが、これは広告サイド、モノを売る側から見れば「消費者情報」であり、「この人間は何なら買うか?」がわかれば、売る側にとってこんな楽なことはない。それがわかるのが、SNSが収集した膨大な「消費者情報」とソーシャルグラフである。この情報は正確なら正確なほど価値が高まる。だから、グーグルは当初「グーグルプラス」の登録をフェイスブックと同じように実名登録にするようユーザーに強要した。それで、匿名で利用しているとみられるユーザーのアカウントを停止・削除したため、大騒動になり、7月末からはニックネームでの利用も認めるようになった。
このようにいまのところグーグルは寛大だ。とはいえ、データ取引参入への疑惑は拭えない。広告はいまや「行動ターゲティング」の時代となり、ユーザーのウェブ履歴(行動)の解析が進んでいる。グーグルにはフェイスブックの「いいね!」ボタンに相当する「+1(プラスワン)」ボタンがあり、これを活用すれば「グーグルプラス」内のサークルの志向など即座にわかってしまう。
前にも書いたが、グーグルのミッションは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」である。ということは、広告主も世界中の人々に含まれるから、いずれ、あなたの情報にアクセスできるようになるだろう。
このように、今後のSNSの進展には大きな落とし穴が待ち構えている。そこで、この落とし穴に落ちないように、私たちは、ちょっとは自衛する必要があるのではなかろうか。では、どうすればいいのだろう?
それは、おそらく、限りなく人間的に生きればいいのではないかと、私は思っている。
なぜかわからないが、SNSを仕掛ける人々、IT側の人々は、ウェブの中では人間はみな正直で合理的に行動すると思い込んでいる。しかし、実際の世界では人間は平気でウソをつくし、合理的とは言えない行動もしばしばする。消費者としても、必ずしも自分の好きなものばかり買うとは限らないし、おバカ消費だってたまにはする。また、突然、気が変わったりもする。
したがって、「いいね!」なんて思わなくても「いいね!」ボタンを押してみる、気に入らない人間とも利害を考えて友だちになる、自分とまったく違う趣味のサークルに冗談で加入する、などという人間らしい行動を実行してみたらどうだろうか?(ただし、あまりにウソをつきまくると炎上する)
こう考えると、冒頭に書いた、グーグルマップのおバカ検索も違った意味合いを持ってくる。ただ、グーグルはこうした遊びに、ジョークで答えてはこない。「太平洋をジェットスキーで横断する」がジョークでないところが、なんとなく虚しい。

WRITER PROFILE
山田順
『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。