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SNS時代の落とし穴 エンタメ

2011.10.27

アマゾンが「BL」「TL」を受け入れれば電子書籍の拡大は確実。大歓迎の業界人たちのホンネ

担当:
山田順

Kindle アマゾンがとうとう、この日本村で電子書籍販売を開始することになった。すでに有力出版社のPHPなど数社と合意し、「Kindle Store」もじきに日本市場に対応するという。これが判明して以来、日本村の業界では様々な動きが起こっている。それを一部の報道は「国内勢は戦々恐々」などと伝えているが、はたしてそうだろうか?
 私もいちおうこの業界にかかわっているので、今回は一歩踏み込んで、「アマゾン日本上陸」について書いてみたい。


 まず、戦々恐々、黒船来襲などと言っているのは、実情を知らない大手メディアの記者、一部出版業界人、電子書籍配信サービス会社、そして端末販売に失敗しつつあるメーカーだけだ。ユーザーと著作者、そして中小のコンテンツホールダーはむしろ大歓迎している。先日も、ガラケーで電子書籍配信をやってきたある会社の社長は、「スマホ時代になって、コンテンツの締め付けが厳しくなった。アマゾンはその点がゆるいので、はやくKindleを売って市場をつくってほしい」と、私に言った。

 彼が言うコンテンツとは、いわゆるBL、TL漫画だ。彼は、はっきりとこう言う。「こうしたコンテンツ以外は売れないのに、なぜ、去年、電子書籍元年などと騒いだのかわからない。メーカーも出版社も目の前の市場を無視して、使えない端末をつくったり、売れもしない本を電子化したりしてきた。そのうえ、流通、印刷業界まで巻き込んで、端末と電子書店が乱立してしまった。この状況を、アマゾンが変えてくれるはず」

 彼が言うとおり、日本村の電子書籍市場は、依然として、BLやTLのエロ系漫画が80%を占めている。しかも、その読者(ユーザー)の大半は、日ごろ紙の本など買わない、10代、20代の女性たちである。電子書籍元年と言われた2010年の市場規模は650億円とされるが、このほとんどがこうしたコンテンツであり、一般書の電子書籍市場は日本村ではまだ成立していない。しかも、ガラケー以外ではiPhoneの市場がやっとできたぐらいで、PCにダウンロードする市場にいたっては、ここ数年で縮小している。

 ということは、BL、TL漫画が、ガラケー以外のiPhone、アンドロイドスマホでも成立しないことには、日本村の電子書籍市場の拡大はないことになる。ところが、アップルはこうしたコンテンツは一切受け付けていない。受け付けるのはかろうじて文字系のエロのみ。『女医が教える本当に気持ちいいセックス』はよくても、ヌード写真集などはもってのほか、水着写真もダメ、肌が露出しているだけの漫画でさえレッドカードが出る。
 そこで、スマホの普及とともに、本当に電子書籍を売ってきた業界人は、アンドロイド・マーケットに期待した。しかし、こちらもガラケーと違って通信キャリアの力が強まったので、アップルと同じようにレッドカードが出るようになった。
 アンドロイドの電子書籍市場は、現在のところiPhoneの市場と比較して2ケタ違う。また、PCでやる電子書店からのダウンロード数も同じだ。私が最近かかわった例で言うと、ある有名著者のiPhoneアプリ電子書籍は3000ダウンロードいったが、日本最大手の電子書籍店でのPCダウンロード数はわずか30ほどだった。

 去年、作家の村上龍氏が電子書籍の新会社を設立し、これに瀬戸内寂聴さんなどが参加して大きな話題になった。しかし、マスコミに華々しく取り上げられた『歌う鯨』以後の電子書籍は、すべて赤字である。

 となれば、もうアマゾンしかない。とくにBL、TLコンテンツはそうだ。「Kindle Store」には、いまのところ、エロを排除するような規制はないからだ。こんなことは誰も書かないので書いておくと、アマゾンはオンライン通販で大人の玩具を売っている。これは、アマゾンの通販のドル箱で、アマゾンは事実上、日本村最大の大人の玩具ストアである。
 前々回のこのコラムで私は、「アマゾンが日本村をオープンさせればひとり勝ちになるだろう」と書いた。その理由の一つは、これである。もちろん「ひとり勝ち」の理由はこればかりではなく、アマゾンがすでに通販でユーザーのアカウントを大量に持っていることがいちばん大きい。なぜなら、ユーザーは、アマゾンが電子書籍を始めれば、新しくアカウントを開く必要がなく、紙でも電子でも本を買えるからだ。

 BL、TLに関してさらに書くと、日本の大手出版社、講談社、小学館、集英社、角川書店などは、このBL、TLの電子書籍ビジネスができない。出版社としてのプライド、ブランドイメージ、社会的な影響力を考えれば、当然である。しかし、コンテンツの先端市場というのは、エロコンテンツによって切り開かれる。したがって、「Kindle」が売れ、日本村の電子書籍市場ができれば、大手による一般漫画も大量に売れるようになるだろう。一般書籍はその次である。
 ただし、アマゾンに参加することは、大手にとっては価格決定権を失いかねないので、慎重にならざるをえない。紙で1000円の書籍なら、せいぜい700円ぐらいまでが妥協点という。そうしないと、電子書籍が中抜きビジネスである以上、取次、書店が怒ってしまう。

 とはいえ、中小は紙の売上が落ちる一方なので、背に腹は代えられない。BL、TLを中心に、アマゾンにどっと流れるだろう。中小の経営者の多くは、「アマゾンが始まったら、すぐやるつもりだ」と言う。なかには「もう少し、様子見だ」と言う経営者もいる。ただ、「キンドルが売れだしたらやるしかない。日本の電子書店、日本連合などこの際どうでもいい。ともかく、従業員を食わしていかなければならない」というのが本音だ。
 私は今年の3月に出した『出版大崩壊 電子書籍の罠』で書いたように、現実論に立っている。理想論では語らない。ビオトープだの、キュレーションなどと、ソーシャルメディア時代の理想論に引っ張られ、これまで業界はどれくらいのおカネをドブに捨ててきただろうか?

 ただ、ここで間違ってはいけないことがある。
 アマゾン日本上陸の報道後、日本村のネットユーザーたちは、「ずっと待っていた」「久々に電子書籍関係で明るいニュースだわ」「アマゾンさんが本を安くしてくれたら買いますわ」なんて、書き込むようになった。それを見て、ユーザーたちは大歓迎しているという見方が一部にある。
 しかし、ネットにこうしたことを書き込むユーザーのほとんどは、じつは電子書籍なんか買わない。彼らは単なる野次馬で、先端人間ぶっているだけ。コンテンツにビタ一文も払いたくない若者たちだ。アマゾンに最初におカネを本当に落としてくれるのは、BL、TLを買う女性たちなのを忘れてはいけない。

 最後にもう一点、これもまだ誰も言っていないので書いておくと、どういう経過をたどろうと、日本村にも電子書籍時代は確実にやってくる。
 日本村は、いまやギリシア村と同じように財政破綻は免れない状況にある。野田どじょう&財務省支配政権は、増税路線一直線で、それを先延ばしにしようと必死だが、日本村の公的債務はもはや増税でしのげる規模を超えている。この財政破綻が3、4年後に起こるとして、そのときは急激な円安とインフレがやってくる。
 となると、紙の書籍の価格はどうなるだろうか?
印刷、流通経費をかかえている紙の書籍は、コストカットがほぼできない。とすれば、インフレ率によるが、文庫本が2000円、ハードカバーが1万円なんて時代がやってくる可能性がある。これでは、ユーザーは低価格の電子書籍で読書するしかなくなる。

 「Kindle」がアメリカ村で売れたのは、電子書籍が99セントなどと、紙の書籍の価格を破壊してしまった点にもある。リーマンショック以後のアメリカ村では、貧困化が進んだ。もともとハードカバーが20ドル以上するなんて市場だから、激安の電子書籍が普及しないはずはなかったのである。
 アマゾンのタブレット端末「Kindle Fire」は199ドル(約1万6000円)、「Kindle」廉価版は79ドル(約6500円)。この衝撃的な端末のアメリカ村での発売(11月15日)が、目前に迫っている。これまでのアメリカ村での報道によると、予約注文が殺到し、大ヒットは間違いない。「Kindle Fire」と「Kindle」は、日本からでも買える。クリックひとつで注文すれば、すぐに送られてくる。やがて、日本村の店頭にも並ぶ日が来る。
 そのときが、日本村の本当の意味での「電子書籍元年」になるだろう。


※写真はAmazon.comから転載

WRITER PROFILE

山田順

『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。

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