2011.10.10
![]()
担当:
山田順
こんにちは、ラップトップ山田です。
これまで3回にわたって、「ITより英語」ということを書き、そのなかでlaptopをwrap-topと書いたため、2ちゃんでスレが立って、非難ごうごうとなってしまいました。当然ですね。こんなトンデモ間違いをする人間は私以外にはいないのだから。「こうなったら改名して、ラップトップ山田と名のるしかないね」と、家族からも友人からもバカにされました。現在、反省、思案中です。
とまあ、それは置かせてもらい、今回は、いま話題沸騰中のアマゾンの新しい「Kindle」について書かせてもらいます。
アマゾンの衝撃的な「Kindle Fire」「Kindle」廉価版の発表から、すでに1週間ほどが経過した。199ドルという「iPad」の半分以下の値段のタブレット端末「Kindle Fire」、79ドルという破格の値段となった電子書籍端末「Kindle」。これをどう受け止めるか、アメリカ村ではいまだに議論が続いている。
そこで、私の見方をずばり書いてしまうと、「これで電子書籍戦争は終了」というひと言に尽きる。日本村でも昨年は「電子書籍元年」と言われ、これまで業界ではさまざまな動きが繰り広げられてきた。しかし、これらの動きは、すべて無意味、無駄に終わったということだ。今後、アマゾンが日本村の市場を開けば、ほぼ間違いなくアマゾンのひとり勝ちになるだろう。
昨年来、私も細々と電子書籍ビジネスを手掛けてきた。そうしてみてわかったのは、ケータイのエロコンテンツ市場を除いた一般書の電子書籍市場がアメリカ村のように成立するとしたら、電子書店のコンテンツ数が飛躍的に増えること、そして、使い勝手がいい電子書籍リーダーが普及すること。この2点がどうしても必要だということだった。
しかし、なぜか日本村の住民は、この問題を真剣に考えてこなかった。
たとえば、先ごろ、シャープは、電子書籍専用だった端末「GALAPAGOS(ガラパゴス)」の販売を止め、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と共同で設立したコンテンツストアの「TSUTAYA GALAPAGOS」を完全子会社化した。これは、端末がまったく売れなかったからだ。
同じく、ソニーは従来の通信機能のない電子書籍端末「Reader」に見切りをつけ、無線LANモデルの「PRS-T1」、無線LANに加え3Gの通信機能を備えた「PRS-G1」の2機種を発表した。こちらも、従来モデルがまったく売れなかったための路線変更だ。
日本村の出版社でいちばん電子書籍化に積極的な講談社は、8月初め、ソニーの「Reader」を全社員に配った。しかし、これはソニーのだぶついた在庫の一掃セールに協力したことと同じだった。実際、「こんな使い勝手の悪いものをもらってどうするんだ」という声があちこちから聞こえた。今年の夏、パナソニックが楽天と組んで発売した「UT-PB1」も、現在のところまったく売れていない。
それ以外にも、日本村では、NTTドコモの「SH-07C」や KDDIの「biblio leaf SP02」などという端末が発売されたが、業界関係者以外でそれを持っている人間を、私は見たことがない。こうした端末は、単に 持っているだけで通信料金がかかるうえ、アクセス先の電子書店にある電子書籍のタイトル数は、わずか2~3万点といったところである。
これでは、通信料金がかからず、タイトル数も100万点を越えた「kindle」のつくり上げたサービスと、比べるべくもない。
電子書籍は、技術革新ではない、サービスだ。
新製品発表の席で、アマゾンのCEOジェフ・ベゾズ氏も、「われわれはKindle Fireをエンド・ツー・エンドのサービスと考えている」「現代の消費者向けエレクトロニクス市場においては単なるデバイスをつくっても成功することはできない。タブレットをつくっている会社の多くは単なるタブレットをつくっている。サービスがつくれていない」と述べている。
すでにアメリカ村では、電子書籍の売上げがすべての書籍アイテムで第1位となっている。その市場の約7割をアマゾンが占め、アマゾンでは電子書籍の売上げがプリント書籍の売上げの倍に達している。
そんななかでの199ドルの「Kindle Fire」と79ドルの「Kindle」の登場である。「Kindle Fire」はタブレット端末で別に論じる必要があるが、廉価版の「Kindle」の破壊力はすさまじい。なにしろ、ライバルと言えるバーンズ&ノーブルの「Nook」が139ドルなのだから、60ドルも安い。世界経済が「2番底」に沈みつつあるいま、この価格破壊では、間違いなく一人勝ちとなるだろう。
なぜ、アマゾンはここまで価格を下げられるのか?
それは、端末販売で利益を得るのではなく、電子書籍販売で利益を得るからだ。実際、単体の端末販売では赤字だ。しかし、その赤字を埋めて余りあるのが、電子書籍の販売から得られる手数料収入。なんと、アマゾンは売価の30%を持っていく。
ユーザーは「Kindle」という端末を性能では買わない。その向こうにあるコンテンツの配信サービスを利用するために買う。「Kindle」を手にして「Kindle store」にアクセスし、電子書籍をはじめとするコンテンツを購入する。そうすると、アマゾンには販売手数料が入ってくる。
これは、アップルが「iTune store」で成功させた垂直統合モデルである。
そのアマゾンが、じきに日本村にやって来る。すでに電子書籍の世界標準規格EPUB3.0は、ローカル言語の日本語の縦書きルビ振りにも対応した。いつでも、アマゾンは日本村で店を開ける状況になっている。
また、アマゾンはいまや日本村のオンラインブックストアとして、その地位を揺るぎないものにしている。数多くの日本村ユーザーが、アマゾンにアカウントを開き、プリント版の書籍を購入している。つまり、アマゾンは、「Kindle」の潜在的なユーザーを日本村で確保しているのだ。ここに、価格破壊端末と最高のサービスで参入すれば、アメリカ村と同じくひとり勝ちとなるに決まっている。
日本村では、これまで関係住民が毎日のように勉強会を開き、村独自の統一フォーマットをつくる、来るべき電子書籍時代の著作権を整える、あるいはなんとかして日本村連合をつくる、などということをやってきた。しかし、それは寄り合い所帯の話し合いに終始した。結局、メーカーと通信キャリア、出版社、印刷会社などが組む電子書店と端末の乱立が起こり、村人たちを混乱させただけだった。これでは、勝ち目はない。
アマゾンが日本村の電子書籍市場の覇者になる時代には、当然ながら、出版社の力は衰える。なにしろ、価格決定権はないうえに、30%もの販売手数料を取られる。さらに、中抜きも起こり、著作者がアマゾンに直接コンテンツを提供するケースも増えるだろう。出版業界は再編され、リアル書店もどんどん姿を消すだろう。
アメリカ世界帝国村で起こったことは必ず極東郡日本村でも起こるという。電子書籍もその可能性が高まった。アップルが音楽を制したように、アマゾンによって本は制覇され、世界中にその影響が及ぶ時代がやってきた。すでに、不良債権の山を築いている欧州広域村でも、アマゾンは勝ち進んでいる。この影響を受けないのは、国家がネットをコントロールし、人口が英語人口に匹敵する規模を持つ中国傲慢村だけかもしれない。
4年前、399ドル(当時のレートで約4万4000円)で「Kindle」が発売されたとき、ガラパゴス化が進んでいたにもかかわらず、日本村ではまだ技術信仰がのさばっていた。当時、ジェフ・ベゾフ氏は「Kindle」を手に持ちながら、「グーテンベルグの活版印刷以来の紙の本や新聞が、ついに紙のくびきから解き放たれるときが来た」と、高らかに宣言していた。
このジェフ・ベゾフ氏の野望が達成される日が目前に迫っている。

WRITER PROFILE
山田順
『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。