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SNS時代の落とし穴 エンタメ

2011.10.20

ウォール街を占拠するならシリコンバレーも占拠せよ。SNSが格差社会をつくっている!

担当:
山田順

1020-01wallst.jpg 「ウォール街を占拠しよう」(OCCUPY WALL STREET)という運動がアメリカ村で起こり、いま世界を揺るがしている。この運動は、なんと10月15日には世界中の都市に広がり、SNS礼賛論者がまた勢いづいている。なにしろ、「アラブの春」がそうだったように、この運動を拡大させているのは、フェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアで連絡を取り合う若者たちだからだ。
 しかし、間違えてはいけない。「アラブの春」も「ウォール街を占拠しよう」も、その原因はリーマンショック以後、アメリカ村政府とFRB(連邦準備理事会)が実施したQE1、QE2にある。そしてまた、今度、欧州広域村(EU)で実施される公的資金注入も、同じ結果を招くだろう。

 そこで、日本村に住む一人のおっさんとして、私は言いたいことがある。それは、ネット世代の若者たちは「なぜ? 金融機関だけを敵視するのか?」「世界を不幸にしているのは、ウォール街に代表される金融機関だけなのか?」ということだ。

 SNS礼賛論者(あるいはネット礼賛論者)は見逃している。あるいは、知らないのかもしれないが、ウォール街は、これまでIT企業、SNS企業に投資して大儲けをしてきた。アメリカ村ではIT企業群は、ウォール街と持ちつ持たれつの関係にある。つまり、若年失業者を大量に派生させ、格差を拡大させているのは、この「IT金融複合体」なのである。

 たとえば、リンクトインは今年の5月に、ニューヨーク株式市場に上場し、初日の取引で株価は一時2.7倍まで上昇した。売り出し価格は1株45ドル。それが、取引開始直後から買いが殺到し、一時は1株122.7ドルをつけて、ウォール街は沸きに沸いた。これを見たグルーポンは即座に新規株式公開(IPO)を米証券取引委員会(SEC)に申請した。これに続いたのが、シンガで、同じくSECに上場の申請を行った。シンガといえばフェイスブック上のソーシャルゲームの最大手である。

 このように、現在、SNS企業とウォール街は一体なのである。
 そして今後の最大の注目は、なんといっても非上場企業のフェイスブックだ。フェイスブックは、当初2012年の第1四半期に上場するとされていたが、来年の後半に持ち越すと、最近、マーク・ザッカーバーグCEOは述べている。非上場企業は有価証券報告書の作成義務はなく、業績を公表もしなくていい。だから、その内情はアナリストの推測によるしかないが、上場の際にはウォール街によって再びITバブルが演出されるだろう。来年の後半というのは、大統領選挙のときであり、オバマ大統領の再選がかかっているからだ。

 ウォール街のバブルは、ITバブルと表裏一体である。IT技術によって生み出された金融工学で、これまで、ファンドマネージャーたちは投資で大儲けをしてきた。ヘッジファンドの興隆は、IT技術がなければありえなかった。現代の金融はフラッシュトレーディングの時代で、0.01秒を争う取引になっている。
 だから、ウォール街のファンドマネージャーたちは、ほとんどが工学系の高学歴人材で、日本村のように金融が文科系人材ばかりというのと、大きく異なっている。アメリカ村では優秀な人材は、ウォール街に行くか、シリコンバレーに行くかのどちらかなのだ。

 ところが、アメリカ村の貧しい若者たちは、同じ人材が仕切っているのに、IT企業だけは非難しない。IT企業の創業者たちは、若者たちのヒーローになってしまう。この9月に死去したアップルのスティーブ・ジョブズ氏が「偉大なイノベーター」とされたように、若者たちはバーチャル世界を手放しで称賛し、ネットは大発展を遂げてきた。
 しかし、彼らがSNSを使えば使うほど、ソーシャルグラフによってプライバシーは侵され、SNS企業は肥大し、ウォール街はますます太っていく構造になっている。これは、大いなる矛盾ではないだろうか?
 
 最近、ネットが格差社会を助長しているという声がある。まさにそのとおりで、ネットのなかもリアル社会と同じく、格差社会が形成されている。
 私は拙著『出版大崩壊 電子書籍の罠』のなかで、「ウェブは、高度情報化社会のシンボルだが、その実情はまったく逆で、じつは低度情報化社会である」「バカはバカと交信し、リコウはリコウとしか交信しない」「リテラシーの高い人と低い人はいくらインタラクティブだの、ソーシャルメディアだと言おうと、コミュニケーションできない。誰が、自分より知能程度や能力が低いと思われる人間のフォロワーになるだろうか?」と書いたら、一部のネットユーザーの逆鱗にふれた。
 この日本村でも、ネットユーザーの格差に対する怨念が渦巻いているのだ。

 だが、よく考えてみてほしい。IT企業の創業者、経営者たちはほぼすべて中流層以上の出身の高学歴者であり、莫大な資産を築いている。学歴、知能、富においても、一般ユーザーとの格差は圧倒的だ。ドットコムリッチという言葉があるが、まさにそのとおりで、これはウォール街リッチと底辺層の格差と同じである。
 なのに、ドットコムリッチは、格差の非難の対象からは除外されている。非難の矛先は、金融や既存のマスメディアに向かう。ウォール街リッチの高額報酬を非難するのに、なぜドットコムリッチは非難されないのだろうか? 「ウォール街を占拠しよう」というなら「シリコンバレーを占拠しよう」もあっていいのではないか?と、一人のおっさんとして、私は思う。

 以下は、IT企業の主なヒーローたちの学歴だ。

マーク・ザッカーバーグ(フェイスブック):ハーバード大学
ビル・ゲイツ(マイクロソフト):ハーバード大学
ポール・アレン(マイクロソフト):ワシントン州立大学
スティーブ・バルマー(マイクロソフト):ハーバード大学
スティーブ・ジョブズ(アップル):リードカレッジ
スティーブ・ウォズニアック(アップル):UCバークレー
エリック・シュミット(グーグル):UCバークレー
セルゲイ・ブリン(グーグル):スタンフォード大学
ラリー・ペイジ(グーグル):スタンフォード大学
ジェリー・ヤン(ヤフー):スタンフォード大学
デビッド・ファイロ(ヤフー):スタンフォード大学
スティーブ・チェン(ユーチューブ):イリノイ大学アーバナ・シャンペーン
ジョード・カリム(ユーチューブ):イリノイ大学アーバナ・シャンペーン
チャド・メレディス・ハーリー:ペンシルベニア州立インディアナ大学
ジェフ・ベゾス(アマゾン):プリンストン大学
エヴァン・ウィリアムズ(ツイッター):ネブラスカ大学
ジャック・ドーシー(ツイッター):NYU
ティム・オライリー(オライリーメディア):ハーバード大学

 見ればわかるように、ITリッチたちは、みな高学歴エリートで、ウォール街リッチたちと大学時代に知り合い、その後、仲良くアメリカ村の先端社会をつくってきた。
アメリカ村というのは、日本以上の学歴社会である。ただ、その学歴は能力と比例し、成功すれば莫大な富が手に入る。
 『フォーブス』誌恒例の長者番付(2011年版)によると、ビル・ゲイツ氏は資産総額590億ドル(約4兆5000億円)で18年連続の首位。マーク・ザッカーバーグ氏は、資産総額が前年から106億ドル増加し、増加額が番付中最大の175億ドルで14位。セルゲイ・ブリン氏とラリー・ペイジ氏は、資産総額がともに167億ドルで15位(同率)となっている。

 今年、芥川賞を取った作家の西村賢太氏はネットユーザーには、絶大な人気がある。中卒で苦労し、努力の末、44歳で芥川賞を受賞した。その西村氏は、雑誌インタビューで、自身が「格差社会のヒーロー」という見方をされることに対して、こう言っている。
 「うーん、ネットで格差社会を恨んでいる人って、たんに努力していないだけでしょう(笑)。自分なりの努力をしていない。ネットにかじりついている暇があったら窓をあけて外の世界を眺め、自分の胸に手を当てて来しかた行く末について考えた方が良いんじゃないかな(笑)」


WRITER PROFILE

山田順

『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。

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