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SNS時代の落とし穴 エンタメ

2011.11.18

本人コメント、公式HPは信じられるか? 人は実名でもウソをつく

担当:
山田順

 ソーシャルメディアの全盛時代がやってきて、個人はもとより、有名人、企業、官庁も、フェイスブック、ツイッターを使うのが当たり前になってきた。情報発信、宣伝、そしてコミュニケーションツールとして、ソーシャルメディアは欠かせなくなってきた。しかし、この流れに、既存メディアで育った私としては、なにかしっくりこないものを感じる。
 とくに企業や官庁、有名人のフェイスブックやツイッターによる情報発信を見るたびに、そんな思いが強くなる。

フェイスブックページ 最近では、財務省までフェイスブックにページを開設し、ツイッターで〈最新情報〉を流している。たとえば、10月5日のツイートは、グラフを引用しながら政府の債務残高が他国と比べ高水準にあるとし、〈公債残高は年々増加し、税収約16年分に相当!〉とメッセージ。翌10月6日は〈日本の債務残高は主要先進国中、断トツの高水準!〉などとやっている。
 ギリシャやイタリアが国債危機でデフォールトするかもしれないこの時期に、「日本もそうです」と、自ら危機を煽っているのだから、なにか意図でもあるのかと疑ってしまう。思い当たるのは、財務省は悲願の増税を達成するためには、手段を選ばないということ。これでは、国民を脅かしているのと同じだ。

 いつのころからか、有名人は公式ホームページ、公式ブログを持ち、そこで本人コメントを発信するようになった。また、最近ではツイッターで、なにかあるたびにコメントを流す。これは、当人発の情報だから、真実(間違いないもの)と、世間は受け取る。既存メディアの記者もありがたがって、そのまま記事化する。
 しかし、ソーシャルメディア上の本人コメントは本当に真実だろうか?


 私は昔、週刊誌の編集者をやっていたが、駆け出し時代は先輩から、「どんなことを書くのでも必ず本人にぶつけろ」と言われた。とくに芸能ニュース担当のときは、これを「直撃」と言って、必ずやらされた。故・梨元勝さんは、生涯これをやり続けたので、いまでも頭が下がる。
 また、新聞記者も、いまでも夜討ち朝駆けで政治家を直撃している。そうして、取れたコメント、あるいは取れなくても、直撃したときの表情、顔色を知ることで、真実に近づける。
 
 しかし、最近は そんなことは尊重されなくなった。ソーシャルメディアにどっぷりと浸かった若い世代は、公式ブログやツイッターの本人つぶやきのほうが、既存メディアの報道より価値があると思っている。「本人が言っているんだから本当じゃん」と、平気で言うから、驚く。
 私が絶句するのは、まったくの無名の個人(公人でない)なのに、自分のブログに「公式」をつける若者までいることだ。

 ある広告界の方からメールが来て、『スポーツは誰のためのものか』(杉山茂・著、慶應義塾大学出版会)という本のなかに、「『当人発の情報』はしばしばメディアの取材による談話より真実に近いとされるが、第三者を介さない発信だから正しいと言い切れるだろうか」という一節があると教えられた。著者の杉山さんは元NHKスポーツ報道センター長。長年、スポーツ選手の取材をこなしてきた方だから、やはり同じような思いをもたれているのだと思った。

 芸能人もスポーツ選手も、もちろんほかの有名人も「公式HP」を持っていると、既存メディアに記事が出る前に、HPを更新する例が多い。とくに、都合の悪い記事だと、本人に直撃取材ができないような深夜にHPをアップしたりする。そうされると、既存メディアは手も足も出ない。とくにファンは、既存メディアより「公式コメント」を信じてしまう。ソーシャルメディアを批判するとき、よく匿名だからアテにならないと言うが、ウソをつく人は実名でもウソをつくのだ。
 
 最近の広告業界はソーシャルメディアに広告を引っ張ろうと必死だ。また、IT業界は、ソーシャルメディアによるマーケティング、宣伝、広報活動をさかんに進める。昔ならHP制作を請け負っていた人間が、いまはソーシャルメディアの専門家として企業に入り込み、フェイスブックやツイッターによる企業活動を請け負っている。

 ソーシャルメディアの欠点は、メディアと言いながら、発信側と受取る側の間に誰もいないことだ。いるとしたら、それは「お友達」と「いいね!」ボタンぐらいだろう。ところが、既存メディアなら、この間を記者が埋めている。そして、記者の目や編集の目を通して、情報は検証されてクオリティが高まる。
 むき出しのナマ情報は、たしかにありがたいが、そのなかには毒が隠されているかもしれないのだ。また、ブログ、ツイッター、フェイスブックなどを流れる情報は、ほとんどが既存メディア発のものの焼き直しだ。
 既存メディアがこのまま衰退すると、権力を持つ人間、有名人には天国が、一般個人には地獄が訪れる可能性が強い。

 と、そんなことを思っていたら、2011年度第3次補正予算案にとんでもない項目があるのを、自民党の茂木政調会長が指摘したという報道があった。茂木政調会長が指摘したのは、環境省の外局として12年度に新設される原子力安全庁のHP作成費1.4億円と、法務省の衛星携帯電話購入費(1274台分)4.76億円の2件。茂木氏は「ホームページは数十万円程度で開設できる」「携帯電話はスマートフォンの最新機種でも4.6万円」などと指摘し、予算額が「高すぎる」と批判したというのだ。(11月9日、讀賣オンラインよ り)

 制作費1.4億円とは、いったいどんなHPなのだろうか? フェイスブック内にもページを開き、ツイッターを連動させても1億円なんかかかるわけがない。こうなると、「財政破綻」を喧伝する財務省のソーシャルメディアにかける予算がいくらなのか? 気になってくる。
 大震災後の原発報道、野田政権誕生報道、TPP報道などを見ていると、既存メディアも権力側に取り込まれたように見える。しかし、それでも、既存メディアを見限ってソーシャルメディアに乗り換えるのはまだ早い。いったい、誰があなたに本当の情報を伝えてくれるのか?

WRITER PROFILE

山田順

『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。

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