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SNS時代の落とし穴 エンタメ

2012.01.20

プライバシーゼロ社会ついに到来。ネットに自由はなし! キャリアIQ騒動 その2

担当:
山田順

 前回に続いて、監視アプリ「キャリアIQ」問題から、「ネットの自由」について考えてみたい。
 キャリアIQとは、昨年暮れにアメリカで発見された個人情報収集アプリで、サムソンのアンドロイドスマホやアップルのiPhoneに搭載されていたことで、大騒動になった。ユーザーの位置情報はもちろんのこと、ウェブでなにを閲覧したのか、パスワードになにを打ち込んだのかなど、すべてのキーの操作履歴を記録してしまうので、ユーザーのプライバシーはなくなってしまうという、考えようによっては恐ろしいアプリである。恐ろしいというか、私たちはオンライン生活をする限り、常時監視されていると考えるのが自然だ。それを再認識させてくれたのが、キャリアIQだった。

常時監視

 そこで、ここに大きな疑問が生じる。こんなアプリがあるのになぜ、ネット関係者やその礼賛論者は、いまもなお「インターネットは言論の自由が尊重されていて素晴らしい世界だ」などと言っているのだろうか? ソーシャルメディア革命などと言って、スマホ時代を称賛しているのだろうか?
 ネットの自由を信じる人々にとって、既存のマスメディアは汚れた存在であり、民衆の側よりも権力側に立つ存在と考えられている。既存メディアは、時と場合によっては、人々のプライバシーを暴き、権力側に有利な情報しか流さない。最近の日本を見ても、福島原発の報道を見ればそれは明らかだ。「だから、個人が支えるネットの自由は大切なんです」と、彼らは公言してはばからない。
 しかし、私はネットの自由なんて、単なる思い違い、バカも休み休み言えと言いたいのだ。

 たとえば、中国には「ネットの自由がない」と、彼らは言う。本当にそうなのだろうか? 中国は19世紀半ばに欧米の帝国主義によって自由を奪われ、それから1世紀以上にわたって荒廃した。その歴史から、中華のアイデンティティの復活を強烈に求め、アメリカが標榜するネットの自由をいまでも認めていない。グーグル、ツイッター、フェイスブックを拒否し、自国内にグーグルと同じ「百度(バイドゥ)」つくり、ツイッターと同じ「微博(ウェイボー)」、フェイスブックと同じ「人人網(レンレン)」をつくった。そして、反政府言論は徹底的に取り締まっている。
 だから、外から見ると「中国のネットに自由はない!」と見える。

 しかし、中国でもフェイスブックやツイッターは、やり方によっては簡単に利用できる。中国に留学した日本人学生に聞けば、「インターネットエクスプローラーの標準機能の一つ『プロクシを使う』機能を使えば、誰でもフェイスブックやツイッターはできます。実際、私は中国でフェイスブックをやっています」と言う。
 まあそれでも、ブログやツイッターで、政府を徹底的に批判し、中傷誹謗を書きまくれば、公安が来て「逮捕します」ということは、中国では起こる。ただ、それはリアルの世界でデモや暴動を起こした例に比べるとたいした数ではない。北京政府はサイバー警察の活動に力を入れているが、それ以上に、他国のサイバー空間を盗み見することに力を入れている。つまり、中国のネット事情もけっこう自由なのだ。

 「ネットの自由」と言えば、本家はアメリカだ。「ウォール街を占拠せよ」運動は、そんなインターネットの自由、ソーシャルメディア革命を象徴する出来事で、集まった若者たちは、無邪気にツイッターやフェイスブックで連絡を取り合い、なかには仲間に大麻を持ってこさせた者もいて、ニューヨークでは市民の怒りを買って公園占拠は排除された。
 しかし、この国には、ソーシャルネットワークができるはるか以前から、世界中の通信を傍受できる「エシュロン」という強力なネットワークがあった。エシュロンは、世界中を飛び交う電話の会話のなかから特定のキーワード、たとえば「テロ」「自爆」「爆破」などを検知し、それを誰が発したのか? 誰と交信したのか? を探知できるシステムだった。たとえば、「ビン・ラディン」を含む通信はすべて検知されてきた。

 アメリカ政府は、2011年8月31日、ウィキリークスが外交公電を読めるパスワードが流出したと発表したとき、情報提供者の実名が記載されている公電もあるとして、激しく非難した。それ以前から、アメリカ政府はウィキリークスを敵視し、FBIは、ツイッター、グーグル、フェイスブック各社に、ウィキリークスを支持するユーザーに関する情報開示を求めてきた。
 アメリカでは、ハイテク企業は政府に対しては協力的で、グーグルはスパム業者の逮捕に協力するために、FBIに容疑者のアカウントを提供したことがある。また、フェイスブックも、地下鉄テロを計画していた男の会話をFBIに提供したという例がある。

 このような例を見ると、結局のところ、中国でもアメリカでも、ネットはその自由さと引き換えに、すべて監視されていると考えるのが自然だろう。つまり、ネットが自由だと言うのは表向きであり、なにかことがあれば、すべての情報がのぞかれていると考えていい。
 つまり、ネットのなかはわざと自由に仕向けられているのだ。そうして「ネットは自由」というイメージが浸透すればするほど、人々は思いのままに自分の意見を表明し、ソーシャルメディアは際限なく増殖していく。そのほうが、ハイテク企業にとっても政府にとぅても好都合なのである。

 アメリカ国務省は、「インターネットの自由」(Internet Freedom)やインターネットに「接続する自由」(Freedom of Connect)を外交方針にしている。たとえばヒラリー・クリントン国務長官は、中国訪問時に北京政府に対して「中国はネット規制をやめよ」とプレッシャーをかけたことがある。
 それなのに、ブラックベリーの愛用者のオバマ大統領は、インターネットIDを国家プロジェクトとしてスタートさせた。これは、「NSTIC」(National Strategy for Trusted Identities in Cyberspace)と呼ばれるもので、2011年4月にホワイトハウスから発表されている。
 現在、ネットでの本人確認はユーザー名とパスワードに基づいている。しかし、この方法は弱点が多く、オンライン詐欺、個人情報の窃盗、なりすましなどの被害が相次いでいる。実際、アメリカでは2010年に約810万件のID窃盗があった。そこで、政府と民間が協力し、より強固な「共通ID」を提供するシステムをつくろうというのが、この計画である。

 となると、たとえばGmailで違う名前のアカウントを使っても、Hotmail、Yahoo mailと使い分けても、インターネットIDですべてが一元管理されることになる。要するに、いま以上に個人の特定はしやすくなる。一見、ネット利用者が犯罪に巻き込まれるのを防ぐためと思えるこの法案は、じつは、こうしてネット利用者を特定し、監視することが本当の目的ではないだろうか?
 さらに、アメリカでは、大統領が非常時にインターネットを遮断することを可能にする法案も検討されている。もし、この法案が成立すれば、ホワイトハウスはネット世界を支配する強大なパワーを手にすることになる。
 これまで、ハイテク企業群は、クラウドこそがネット文明のあるべき未来というバラ色の夢を強調してきた。これによって、人々はどんな端末からも、いつでも好きなときに、自分のファイルからコンテンツにまでアクセスできる。もはや、自分でアプリを持つ必要はなく、コンテンツを所有しなくてもいいということになった。
 しかし、政府が非常時にネットを遮断したら、どうなるだろうか? 自分のデータにはすべてアクセスできなくなるばかりか、権力側はそれを見放題になるだろう。クラウドに依存するということは、自らプライバシーを他人に預けることと同じなのだ。

 日本のネットでは相変わらず、匿名が幅を利かしている。しかし、「2ちゃんねる」にしても、とっくの昔にIPを記録・保管しているから、匿名は有名無実化している。「匿名だからなんでも書ける」などと思っているのは、お人好しの書き込み人間たちだけだ。テロが連想される爆破予告、事件が予測される殺人予告を書けば、あっという間にIPが照会される。そのIPに基づいて今度はISP(インターネット・サービス・プロバイダ)に照会が行き、ユーザーが判明する。

 もはや、オンライン生活をしている限り、あなたのプライバシーを守ってくれるところなどどこにもない。そう考えるべきだろう。こうした状況をさらに助長するのが、ソーシャルネットワーク、とくにフェイスブックによる実名主義にほかならない。だから、アンチ・フェイスブックを標榜するサイトまで、アメリカではできている。「UNTHINK.com(アンシンクドットコム)」というこのサイトは、立ち上がるとかなりの人気を集め、現在、ユーザー数は20万人に達している。
 「匿名のうえたった140文字。それにすぐに消えてしまう。だから、ツイッターなら大丈夫」なんて考える人もいるだろう。しかし、アメリカでは2010年から、連邦議会図書館がツイッターのアーカイブを持ち、何百万、何千万というつぶやきを記録している。その理由は、「たとえ短いつぶやきとはいえ、そのなかには歴史的な記録、社会的な記録、文化的な記録として貴重なものが含まれている。それを記録し、人類の進歩に役立てたい」という高邁なものだ。しかし、これもまた、すべてのつぶやきが監視されているということを意味している。

 私たちは常に監視されている。すでに私たちにプライバシーはない。このことに、私たちがなんの不自由さも恐怖心も感じないのは、単に私たちが取るに足りない存在だからにすぎない。


WRITER PROFILE

山田順

『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。

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