2012.01.14
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担当:
山田順
全米を騒がせた個人情報を収集する監視アプリ"Carrier IQ"(キャリアIQ)問題は、年が明けても続いている。キャリアIQは、弱冠25歳のセキュリティ研究者トレバー・エッカート氏によって、昨年の11月半ばに発見された。位置情報はもちろんのこと、ユーザーがウェブでなにを閲覧したのか、パスワードになにを打ち込んだのか、すべてのキーの操作履歴を記録するのが、このアプリだった。
エッカート氏は、アプリが動作する様子を撮影した約17分の動画をユーチューブに投稿。これを見て、ユーザーも業界も騒然となった。なにしろ、キャリアIQはサムスンやHTC製のアンドロイドOSのスマホのすべてとブラックベリーにインストールされていたからだ。
慌てたキャリアIQ社は、「携帯端末とキャリアサービスの品質管理のため」と釈明したが、著名プログラマーたちは、「品質管理のためと称して、新築の家のバスルームにカメラを設置するようなものだ」とキャリアIQ社を猛批判。12月になると、今度はアップルのiOSにも含まれていることが判明し、騒動は拡大した。
ミネソタ州選出のアル・フランクリン上院議員は、キャリアIQ社に情報提供を求める公開書簡を送付。アップルも事態を静観できず、「iOS5におけるキャリアIQのサポートは大部分の製品で中止しており、今後のソフトウェアのアップデートによって完全に排除いたします」と釈明した。しかし、ユーザーたちの怒りは治まらず、デラウェア州を皮切りにクラスアクション(集団訴訟)が起こり、通信キャリアのAT&T、スプリント、T-モバイル、アップル、キャリアIQなどの当事者が訴えられることになった。このクラスアクションの目的は、すべてのユーザーを代表することであり、いずれの場合も「連邦盗聴防止法」(Federal Wiretap Act)違反を、その理由としていた。
こうしたアメリカの事態を受けて、サムスンのお膝元・韓国でも調査が行われた。調査したのは東亜日報と高麗大学・情報保護大学院。この調査ではキャリアIQそのものは発見されなかったが、同じような監視アプリの存在が確認された。そのアプリは、スマホの「ギャラクシーS」に搭載されているアプリ「鏡」。カメラで自分の顔を映す単純なアプリと思われていたが、じつは、端末に保存した連絡先やカレンダーの日程、位置情報、携帯メール(SMS)の内容、写真、録音内容など、40以上の内部機能に自由にアクセスできるように設計されていたのである。
高麗大学・情報保護大学院の金昇柱教授は、「過度な権限を持つアプリをメーカーが顧客に説明せずに取り付けるなんて、ショックだ」と話したが、当事者のサムスンは「開発者の単なるミスだ」と釈明した。
「サービスの品質管理のため」「開発者の単なるミス」? そんな釈明が信じられるだろうか?
もちろん、この日本でもNTTドコモ・KDDI・ソフトバンクモバイルの3社が、「キャリアIQの搭載の有無」を問われることになった。その結果は、3社とも「搭載していない」との答え。ソフトバンクから発売中のiPhoneについても、「当社が発売したものについては、過去に発売したものも含めすべて搭載していない」との答えだった。
以上が、これまでの大まかな経緯だが、問題は、このようなアプリがスマホに搭載されているか、いないかにあるのではない。また、実際に搭載されていて、ユーザーの情報をスパイしていたのか、していなかったのかにあるのでもない。
そもそもそんなアプリをなぜつくったのか? そして、それをなぜスマホに組み込んだのか? その目的こそが、この問題の本質だ。

アメリカのキャリアIQ騒動で思い出されるのが、日本で昨年秋に起こった「カレログ」騒動だ。このカレログもまた、個人情報収集アプリだった。「彼氏のスマホにインストールしておけば、いまどこにいるかわかります」ということで、サービスが開始されるや、1週間で1万ダウンロードを記録する大ヒットになった。
しかし、提供情報は位置情報ばかりではなかった。どんなアプリをインストールしているか? 誰と通話したか? バッテリーはどれくらい残っているか? などもわかってしまう。そのため、たとえば彼氏の電話に出なかった言い訳が「バッテリーが切れていて」なんてウソは通用しなくなった。また用途を変えて、たとえば営業マンのスマホに入れれば、上司は営業マンがパチンコ屋でサボっているのがリアルタイムでわかってしまうことになった。
このカレログが恐いのは、勝手にインストールされても、本人が気がつかないことだった。そのため、「法的に問題がある」という声が上がり、本人の同意がないとインストールできないという改良が加えられた。また、「カレログチェッカー」という、インストールされているかどうかを判別する対策アプリまで登場した。
しかし、その後、この問題は日本ではあまり深刻に受け止められず、キャリアIQ問題にしても、アメリカほどは騒がれなかった。
では、ここで立ち止まって考えてみよう。まず、考えてほしいのが、なぜこれほどまでにネットは自由なのかということだ。現在、ネットの中では、匿名発言は放置され、 過激発言、おバカ発言、反政府発言はあふれ、暴露ネタは流れる、ポルノは見放題、プライバシーは侵害し放題など、実際の社会ではありえない自由さ、無秩序さが蔓延している。
だから、ソーシャルメディア時代がやってきて、ネット関係者は手放しでこの状態を称賛している。「インターネットは言論の自由が尊重されていて素晴らしい世界だ」と言い、既存の汚れたマスメディアと比較して、ソーシャルメディアの優位性をさかんに強調する。そこにスマホが登場・普及し、ネットの自由はますます拡大化したように見える。
しかし、本当にネットは自由なのだろうか? キャリアIQ騒動を見れば、なにか変だとは思わないだろうか? これほどまでに自由で好き放題にできるのは、じつは自由でもなんでもなく、単に放置されているだけとは思わないだろうか?
キャリアIQのような監視アプリは、たまたま発見されれば騒ぎになる。しかし、誰かがそれを発見して騒ぎ立てなければ、企業側も政府もほぼなにもしようとはしない。監視アプリといっても、カレログぐらいでは、ユーザーは「面白いわ。私もやってみよう」という反応が中心で、これを危険だとは感じていない。うすうす「なにか変だ」と感じても、「やはりネットほど自由な空間はない」と信じている。本当にそうなのだろうか?
これに対する見解は、次回に述べる。いずれにせよ、オンライン生活をすれば、私たちは四六時中監視されている。一見自由に見えるネットの世界は、見せかけにすぎないのだ。とまあ、こんな大げさな話は後回しにして、スマホのユーザーになったら、どんなアプリが搭載されているのか? まずは確認することをおススメしたい。

WRITER PROFILE
山田順
『女性自身』編集部『カッパブックス』編集部を経て、光文社ペーパーバックスを創刊、編集長を務める。日本外国特派員協会(FCCJ)会員。2010年、光文社を退社し、フリーランスに。近著に『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)。川崎順平、神山冴などのペンネームで、著書多数。