2011.06.26
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担当:
茂木宏子
「よし、大学院へ行こう!」
そう決意したのは、まだ厳しい暑さの残る昨年8月末のことだった。
フリーランスのライターとして長年スポーツを取り巻く様々なビジネスを取材してきた私だが、ブーム化している昨今のスポーツビジネスに対してはちょっと疑問を抱いている。オリンピックやワールドカップといったビッグイベントのテレビ放映権やスポンサー料、スター選手たちの高額な年俸など、大きなお金が動く華やかなビジネスには注目が集まるが、テレビ観戦に不向きなマイナー競技は見向きもされず、競技間の"貧富の差"は開くばかりだ。
その一方で、2016年のオリンピックを東京で開催しようという2年前の招致活動は、「景気低迷で苦しんでいるときに"遊び"に財源を使うなんてとんでもない。景気対策を優先しろ」と国内の気運が盛り上がらないまま、あえなく惨敗。スポーツが持っている社会的な価値は認められていないのが実情だ。私自身も含めてスポーツに関わる人たちは、社会におけるスポーツの価値や可能性をもっと多くの人に認識してもらう努力をしなければいけないんじゃないか――。
そんなとき、招致活動の取材で知り合った筑波大学の真田久先生に相談したところ「だったら大学院で勉強してみれば?」といわれ、ハッとした。
学生時代から机に向かってコツコツと勉強するより、様々な場所に出かけて行って自分の知らない世界を見たり体験したりする方が好きだった私は、およそアカデミックな世界とは無縁で「大学院に行く」なんて発想をしたこともなかった。だが、大学を卒業してから20ン年、学生時代にちゃんと勉強しなかったことへの後悔と、いま一度学び直したいという想いが心の奥底にあった。
●緑豊かで広大なキャンパスの玄関口となる大学正門
幸い、私が受験しようと思った筑波大学大学院(体育学専攻)には社会人特別選抜という枠(一般入試10名、推薦入試10名)がある。社会人としての活動実績を提示し認められれば英語の試験が免除される制度で、英語が苦手な私にとってまさに渡りに船。出願が半月後に迫っていたこともあり、半ば勢いで受験を決めてしまった。
仕事柄、自分の意見や考えを人に話したり文章にするのは日常茶飯事なので、面接と論述ならこっちのもの......と思っていたが、いくつになっても「試される場」は緊張を強いられる。果たして自分の想いは面接官に伝わったのか、論述試験の回答はきちんとポイントを抑えていたのかと日を追うごとに不安は募る。「このトシで不合格の烙印を押されたらキツイな」という思いもあり、合格の報を受けたときはホッとした。
●つくばエクスプレスが開通してから発展したつくば駅前。
駅直結のビルには「スタバ」「ロフト」「GAP」等のテナントが入る
しかし、喜んだのもつかの間、仕事と学業の両立が本当にできるのか? これが現実的な課題として立ちはだかってくる。この点で大きなアドバンテージとなったのが、2005年に開業したつくばエクスプレスの存在だ。つくば―秋葉原間が最短45分で結ばれるようになったため、つくばに拠点を移しても何とか取材活動は続けられる。原稿はパソコンで書いてメールで送るので、場所に拘束される心配はない。だったら、片道2時間余りかけて通学するよりは、つくばに拠点を移した方が時間を有効に使えるのではないか。そう考えて住み慣れた横浜の地を泣く泣く離れ、入学と同時に自宅もつくばに移すことにした。
そんなこんなで新生活に向けて準備を進めていた矢先の3月11日、東日本大震災が発生。筑波大学にも甚大な被害をもたらした。入学式会場に予定されていた大学会館が被災して使えなくなったため、入学式は7日から20日に延期されたうえ、なんと陸上競技場での"青空"入学式になった。
●3.11大震災の爪痕が残る総合体育館。老朽化していたため、壁が落ち窓ガラスが割れて今も立ち入り禁止の状態だ
私が通う体育・芸術エリアでは、メインの校舎の復旧は4月11日の授業開始に何とか間に合ったものの、隣接する総合体育館は壁が落ちるなどして大きな被害を受け、いまだ立ち入り禁止状態。体育関連の豊富な文献が揃う体芸図書館も激しい揺れで書棚が倒れたところに窓ガラスの破片が降り注ぎ、機能不全に陥った。5月下旬に2階部分だけ開館したものの、まだ仮復旧状態で不便な生活を強いられている。
1000年に1度といわれる大震災がよりによって入学直前に発生するなんて、これも何かのめぐり合わせなのだろうか? オーバー40のキャンパスライフは一生忘れられない波乱の幕開けとなったのだった。

WRITER PROFILE
茂木宏子
フリーランスライター。「週刊ポスト」や「DIME」のほか、「極楽スキー」(小学館)の編集制作にも携わる。取材のフィールドはスポーツ、ビジネス、最先端テクノロジーなど。 主な著書は「メダルなき勝者たち」(ダイヤモンド社)「お父さんの技術が日本を作った!」「夢をかなえるエンジニア」(小学館)。 第46回(97年)小学館児童出版文化賞受賞。日本大学法学部新聞学科卒業。現在は筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻に在学中。