2011.08.07
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担当:
茂木宏子
3・11大震災で波乱の幕開けとなった大学院生活――。つくばは被災県(茨城)にあるだけに授業への影響が心配されたが、4月11日に予定通りスタートした。
ただ、4月中は授業中に大きな余震に見舞われることもしばしばで、授業を中断して先生と一緒に避難したことも......。揺れの大きさも頻度も3月まで住んでいた横浜の比ではなく、地震は割と平気なタチの私も「もういい加減、勘弁して〜!」と思わず叫ぶほどだった。
そんな余震も連休明けぐらいからようやく一段落。授業は滞りなく行われ、3学期制を採用している筑波大学では6月27日で1学期が無事終了。翌日から1週間は試験期間だったが、私が履修している科目はすべてレポートによる評価だったので、7月8日まではその作成に追われた。
その後は待望の夏休み......なのだが、7月14、15日の2日間、私は大学院共通科目の夏季集中講義を受講した。大学院共通科目というのは、専門分野に関係なく幅広い知識を身につけるために平成20年から開設されたもので、情報伝達力・コミュニケーション力養成、国際性養成、キャリアマネジメント、知的基盤形成など7つの科目群に70もの講座が用意されている。自分の興味や関心の持ち方次第で様々な学びの機会を得ることができるというワケだ。大量の学生を工場のごとく画一的なカリキュラムの中で教育していたかつての大学とは大違い。今の学生は本当に恵まれている。せっかくの機会なので、キャリアマネジメント科目群から『「仕事と生活」と男女共同参画~ワーク・ライフ・バランスを軸に未来予想図を描こう~』という講座を受けてみることにした。
ワーク・ライフ・バランスという言葉は、数年前から取材先などでたまに耳にするようになっていた。「国民一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」を目指す取り組みで、まさに"仕事と生活の調和"である。
日本では少子化対策や男女共同参画の文脈から語られることが多いテーマだが、私が社会に出た20ン年前は男女雇用機会均等法の導入で女性の職を選ぶ権利がようやく広がってきた頃で、キャリア志向の女性は生活を犠牲にしてでも仕事を優先させるのが当たり前の時代。ワーク・ライフ・バランスという言葉もなかった。それだけに、その概念や取り組みについて知るいい機会だと思ったのだ。
授業は2日間とも朝9時半から夕方6時まで。1時間の昼食休憩を挟んでのロングランだけに「集中力が持つのかな?」「かったるそう。取らなければよかったかも......」と受講前は少々ネガティブになっていた。だが、予想に反してこれが非常に面白かった。
その最大の理由はバラエティに富んだ受講者の顔ぶれにある。23人(男性は7~8人)が6班に分かれて座り、与えられた課題に対してグループディスカッションするのだが、テーマが細かく変わるたびに席替えして班をシャッフルするのでいろんな人と出会うことができる。ロボットや人工知能の研究をしている人、騒音を消すノイズキャンセリングの研究をしている人、障害児教育や福祉の勉強をしている人、芸術専攻でグラフィックデザインの勉強をしている人、図書館情報学でデジタルメディアの研究をしている人、看護学専攻でメンタルヘルスを勉強しているという現役の看護師さん......と、それはもういろいろなのだ。
●DVDやスライドを使ってのレクチャーの後、グループディスカッション。テーマが変わるたびに席替えして受講者同士の交流も図った。
私がとくに印象深かったのは、生命環境科学を専攻しているという2人の女性。1人は虫の発生起源を八重山諸島(石垣島など)に生息する「ルリゴキブリ」を使って研究しているという。子供の頃から虫取りは結構好きだった私だが、ゴキブリとにらめっこする毎日は想像しただけでゾッとする。写真があるというので見せてもらったが、確かに瑠璃色に輝く見た目には美しいゴキブリだった。
もう1人は、エチレンナノバブルを研究しているという女性。バナナなどの果実を黄色く色づかせ成熟させるのにエチレンガスを使うという話は聞いたことがあるが、気体のままでは扱いにくいのでナノバブル状の液体にして植物に与える水耕栽培について研究しているのだという。詳しい内容は難しくてよくわからないが、エチレンナノバブルを植物細胞に取り込ませることで植物の代謝が進むらしい。
文系人間の私からしてみれば「そんな研究があるの? 総合大学にはいろんな人がいるもんだな」と驚くと同時に、そういう分野に女性研究者がいることに感嘆した。彼女たちにとって、ワーク・ライフ・バランスは切実な問題なのかもしれない。
肝心の授業も興味深かった。男女共同参画推進室の遠藤雅子先生が、スライドを使ってワーク・ライフ・バランスの歴史などをレクチャーする時間もあったが、従業員の子育て支援から様々な地域貢献活動をやっている企業の実例や、ワーク・ライフ・バランスと関連ある社会事業に取り組むNPOの実例を、VTRで観てグループディスカッションするのに多くの時間が割かれた。昨年『ハーバード白熱教室』(NHK教育)で話題になったマイケル・サンデル教授の著書『これからの「正義」の話をしよう』から、「アファーマティブ・アクションをめぐる論争」の章を読んで自分の意見を原稿用紙にまとめ、最後は日本の女性研究者の採用にアファーマティブ・アクションを導入すべきか否かをディスカッション。その賛否の意見を班ごとに書き出してポスターにし、互いに発表し合って講義は幕を閉じた。うだるような暑さを忘れ、瞬く間の2日間だった。
講義を受けたことで私自身の価値観が劇的に変わったということはないが、"多様性"を認め合える社会の必要性を改めて痛感した。これまでの自分の働き方を振り返りつつ、仕事と学業の両立やこれからの自分の生き方について考えるいい機会にもなった。
そうそう、1つ疑問に感じたのは、受講していた男子学生の大半がシステム工学関連の専攻だったこと。これは一体なぜなのか? 理系の男子学生の方がワーク・ライフ・バランスや男女共同参画の意識が高いということ??
ちなみに、私が籍を置く体育学専攻の男子学生は皆無だった。
●研究機関においても、女性が働きやすく能力を発揮できる環境を整えていくことは重要だ。研究機関で働く卒業生らのメッセージを集めたパンフレット

WRITER PROFILE
茂木宏子
フリーランスライター。「週刊ポスト」や「DIME」のほか、「極楽スキー」(小学館)の編集制作にも携わる。取材のフィールドはスポーツ、ビジネス、最先端テクノロジーなど。 主な著書は「メダルなき勝者たち」(ダイヤモンド社)「お父さんの技術が日本を作った!」「夢をかなえるエンジニア」(小学館)。 第46回(97年)小学館児童出版文化賞受賞。日本大学法学部新聞学科卒業。現在は筑波大学大学院人間総合科学研究科体育学専攻に在学中。