2011.11.25
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担当:
ゴン川野
パイオニアのハイエンドAVアンプ『SC-LX85』を約2時間にわたってたっぷり視聴できるというイベントがホームシアター&AV専門店「アバック」グランド新宿店で行われることを知り、早速取材を申し込んだ。最新AVアンプをいち早く視聴できるといういことで、2回に分けられた視聴会は定員一杯で暗騒音を抑えるため空調を切っているのか、室内は熱気にあふれていた。イベントにはパイオニア・ホームAV事業部設計部平塚友久氏、AV評論家の亀山信夫氏を迎えマニアックな質問にも対応できる万全の態勢がとられていた。ざっと視聴システムを紹介しておこう。

フロントLRスピーカー『PIONEER S-3EX』
センタースピーカー『PIONEER S-8EX』
サブウーハー『PIONEER S-W1EX』
サラウンド、フロントハイト『JBL4312MII』
プロジェクター『SONY VPL-VW95ES』
L、C、Rには「TAD」のテクノロジーが投入されたEXシリーズの3ウェイスピーカーを贅沢に採用。これに対してサラウンドスピーカーはJBLの小型モニターをあえて組み合わせている。これはフルバンドフェイズコンロールの実力を知るためと、一般家庭ではサラウンドまで同じスピーカーを揃えることは難しく、小型スピーカーが使われることが多いからである。このアンバランスな組み合わせも、また非現実的であるには変わりないが......
今回のAVアンプの目玉機能はフルバンドフェイズコンロールである。フェイズとは位相のことであり、詳しく説明すると長くなるので、位相が揃わないと音が遅れると思って欲しい。専門用語を使いたい人は「群遅延特性」と覚えておくと良いだろう。具体的に音が遅れると何が問題なのか? ノイズキャンセリングヘッドフォンをご存じだろうか。周囲で発生しているノイズをマイクで集めて、それを打ち消す逆位相の信号を出すことでノイズを打ち消す仕組みのヘッドフォンである。これと同じことがスピーカーの間で起こるのだ。特にサラウンドの場合はスピーカーの本数が多く、音が遅れがちなサブウーハーまであるので条件が悪い。位相が揃わないと、音のつながりが悪くなったり、低音の量感が減ったり、情報量が少なくなったりと色々な問題が発生する。これをアンプ側で解決するために生まれたの機能がフェイズコンロールである。フルバンドとは全部のスピーカーの位相を揃えることを意味する。
位相問題に以前から取り組んでいる亀山さん、音の遅れに関してく詳しく説明してくれた。

これが位相を揃える前のスピーカーの特性である。右側に行くほど高音、左側に行くほど低音となる。低音になるほど位相が大きく乱れていることが分かる。

こちらが位相を揃えた後の特性だ。かなり一直線に近付いている。

これで位相の問題は全て解決と言いたいところだが、やっかいなことにBDのソフトに収録された時点で低音の位相が遅れた状態になっている作品もあるのだ。例えば『マイケル・ジャクソン THIS IS IT [Blu-ray]』に収録されているビリー・ジーンで9msの遅れがあることが分かっている。
測定器で調べた音の遅れ。上下の波形が揃っていないことが分かる。これが音の遅れになる。

この後れを修正する機能が、フェイズコンロールプラスである。実際に9msの後れを補正すると、打ち消されていた低音が復活され、これが同じ曲なのかと思うほど音のバランスが一変して、楽器のアタック感や立ち上がりの鋭さも増して緊迫感のあるステージが感じられた。
どのBDでどれぐらいの遅れがあるかは専門の機器で測定しないと分からないが、これをみんなで測定してデータベース化しようという試みがある。それが「LFE遅延に関するデータベース」だ。アバックのWebサイト内に公開されているので、気になる人はチェックしてみよう。

セッテイングの話に続いて、ここからは映画を見ながらAVアンプに求められる音像定位、包囲感、移動感の3つの大切な要素を実感することになった。亀山さんが選んだのは『エリザベス [Blu-ray]』で、会議が行われている広い石造りの会場と、何やら陰謀を巡らせている狭い木造の建物の中での会話の反射や残響の違いがよく分かった。天井が広くザワザワした石造りの会場はハッキリした響きがあり、室内が広いので長めの残響になる。狭い木造の部屋はこもった感じの響きで残響は短めだ。建物の素材によって響きが違っていることが分かった。自分がその部屋にいるような包囲感が感じられた。
アバック新宿店店長関さんが選んだのは、『スター・ウォーズ コンプリート・サーガ ブルーレイBOX [Blu-ray]』のエピソード2でのオビワンの追撃シーンだ。フロントとリアで種類もサイズも違うスピーカーを使っているが、音の移動感がきわめて自然で違和感がなかった。
さらにフロントハイトを加えた9.1ch構成の「DTS NEO:X」を『ナイン 9番目の奇妙な人形 [Blu-ray]』で体験した。奇妙な作風のSFアニメーションだが、その音と映像は折り紙つきの作品で、人類滅亡後の空虚な世界を吹き抜ける風の音を通じて、廃墟と化したビルの高さや空間の広さが感じられた。
最後は、これまたLX85の新機能であるフロントL、Rとセンタースピーカーの3台を低域、高域で別々のアンプで駆動するバイアンプ接続を体験。ここでスピーカー接続の変更を含め休憩時間となった。バイアンプ接続はスピーカー3台分で6本のケーブルが必要となり、その接続方法はリアパネルに表示された順番とは異なるため、実際の作業はかなり面倒だ。最後にアンプ側の設定を変更すれば完成。

バイアンプで視聴したのは『地獄の黙示録 [Blu-ray]』である。ワルキューレの騎行と共におこなわれるヘリの爆撃シーンであれば、先日のYAMAHA『RX-A3010』の視聴会と同じシチュエーションだったのだが、残念ながら今回は冒頭の回想シーンだったため、非常に地味。頭上でヘリが旋回する音とセリフのみでの視聴となった。正直ちょっともの足りなかったが、情報量が多く、さらに緻密さを増した音になったような気がした。
この後、192Hz/24ビットのハイビット再生などもおこなわれ、非常に充実した視聴会となった。個人的にはLX83まで採用してきたデジタルアンプ「iceパワー」をベースにしたダイレクトエナジーHDアンプが、今回から「FET」になったことで、その音はどう変わったのかが知りたかったのだが、そんな事を忘れてしまうほど、LX85のパワフルな音と多彩な機能を見せつけられた。拙宅のAVアンプは7年前の製品でそろそろ交換と思って各社のAVアンプを視聴していたのだが、やっぱりコレしかないと視聴室からお店のカウンターに直行しLX85を予約した。実際に自宅で使ってみたレポートは、DIME本誌24号(12月6日発売予定)のDIME SHOP「自腹買いアイテムここだけの話」に掲載予定なのだ。

WRITER PROFILE
ゴン川野
カメラ生活42年、小学生でオリンパスPEN-Fを愛用、中学生で押し入れ暗室にこもり、高校では写真部部長。大学卒業後、単身カナダに渡りアウトドアスクール卒業後「BE-PAL」を経て本誌ライターに。保有交換レンズ41本、カメラ28台(見える範囲で)。