2011.12.16
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担当:
川端由美
エコカーと聞けば、世界の果てまでも! エコ・モータージャーナリストを自称する身としては、あのテスラモーターズが新型EVとその生産工場をお披露目すると聞いて、駆けつけないわけにはいかない。日本から11時間のフライトを経て、さらにクルマで小1時間ほど走った後、サンフランシスコ郊外にあるフリーモントという町に着いた。
まずはテスラについてざっとおさらいを。「自分たちが乗りたいカッコいいエコカーを作ろう!」を合言葉に、IT業界のエンジニアたちが立ちあげたEVヴェンチャーであり、昨年、トヨタとパナソニックが投資をし、日本にもショールームがオープンするなど一躍注目の企業となった。従来は2座オープンの『ロードスター』のみを生産していたが、今回ようやく実用的なサルーンが発表される。3年前にコンセプトカーを目にして以来、この日を待っていた。CEOのイーロン・マスクさんいわく、「スポーティネスと実用性を兼ね備えた」期待のEVである。
見た目は合格点。素直にカッコいい。実用性を重視した4ドア・ボディではあるが、空力を重視したクーペ風のスタイリングはスポーティ。中型セダンのサイズだが、中に座ると大型セダン並みに広々している。7000個近くのパソコン用リチウムイオン電池を搭載するが、すべて電池を床下に広く薄く収納した結果、大人4人がゆったり乗れるだけの室内空間を確保した。実は、1-2列目に5人乗りして、後ろ向きに2つの子供用シートを設置することで最大7人乗りが可能だ。
「ベータ版」なる最終試作品を自ら運転することは許されなかったが、特別にエンジニアによるテスト走行への同乗がかなった。発進した瞬間、あまりの加速感に体がシートに押し付けられた。停止から96km/hまでをたった4.5秒で加速する一方で、EVならではの滑らかな加速にエンジン車との違いを感じる。前後にエアサスペンションを備えており、セダンらしい乗り心地の良さも両立させている。運転を担当したエンジニアによれば、「ステアリングの応答性がすばらしく、アクセルの開閉へのレスポンスも高い」とのこと。次回はぜひ、自分の手で確かめたい。
設立から10年足らずのITヴェンチャーがこれほど完成の度いEVを作れた理由は「人材」にある。技術担当副社長に元ジャガーのエンジニアが就任した他、ロータスでハンドリングを実験した人物やフォードGT40の設計に携わった人などがこのクルマの開発を手がけている。加えて、レクサスの生産技術を知る人物が工場をまとめている。まさに、クルマ作りのドリーム・チームだ。
驚くことに、この工場では原材料のアルミ・ロールからボディの組み立てまで一貫した生産を行なうことができる。電池パックや内装の組み立てに始まり、プラスチックの整形、アルミ・ボディの成型などすべての工程が同じ敷地内に集まっている。最新のドイツ製ロボットを導入した以外、生産設備の多くはリユース品を活用している。工場も、2年前に閉鎖されたトヨタ-GMの合弁工場をリノベーションしたものだ。
節約したお金は、件の人材確保に投資し、さらに5万ドル以下という製品価格にも反映させた。円高の今、そのまま換算すると日産『リーフ』や三菱『iMiEV』に匹敵するバーゲンプライスだが、日本への運搬や法規への適合の手間を鑑みても同クラスのエンジン車の1.5倍程度であれば、EVとしては破格に安い。
『モデルS』の話題も覚めやらぬうちに、来年早々のデトロイトショーでは『モデルX』なるSUVも登場させる予定だ。新工場では、『モデルS』と『モデルX』をあわせて年間2万台クラスまで生産を拡大する目論見がある。IT業界では珍しくないサクセスストーリーかもしれないが、自動車業界では創設から10年足らずの企業が一挙に数万台クラスの生産能力を持つのは異例中の異例だ。望むべくは、IT出身の軽快なフットワークと革新性で、EVの世界に新風を吹き込んでもらいたい。
日本では東京にショールームをオープンするなどその名が知られはじめているが、中国にはまだ一歩も踏み出していない。実際、テスラは2003年の創設から2シーター・スポーツカーというニッチな製品を2000台余りを販売した程度のヴェンチャー企業に過ぎない。
小さな自動車メーカーが世界的な注目を集めるのには理由がある。IT業界出身のエンジニアが立ち上げたEVヴェンチャーであり、IT業界らしい自由な資金調達や意思決定の速さを武器に、自動車の設計図も工場もない状態から自動車を生産するまでに成長させた。また、2009年にダイムラーから資本を得て、2010年にトヨタやパナソニックが資本を投入したことにより、その注目度は俄然、高まった。

WRITER PROFILE
川端由美
工学を修めた後、技術者として就職するも、クルマ好きが高じて自動車専門誌の編集部に。女性、元エンジニア、自動車/環境ジャーナリストといったハイブリッドな視点を持ち、幅広いメディアに寄稿する。